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特集記事
Del sol 中米ツアー ブログ
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ハーバード大卒で超が付くインテリのサックス奏者&作・編曲者スティーヴ・サックス。長い間日本に拠点を定めている彼は、ジャズをコアに脱ジャンルな抜群の活動領域を誇る達人だが、その本籍はぼくの最も好みのラテン・ジャズの分野にあり、実際にかつてティト・プエンテ楽団などでも大活躍、来日したラリー・ハーロー楽団など様々なラテン系ライヴでは、客席の彼を見つけると何時でも“スティーヴ!”と…、その名前がコールされる程のラテン・ジャズ界“隠れ大物”でもある。

そんな彼が率いるラテン・ジャズの快心バンド「マンボ・イン」待望の3作目である。本邦在住の盟友ピアニスト、ジョナサン・カッツ(2曲のオリジナルも良し)を筆頭に、伊藤博康(b)佐藤英樹&鈴木義郎(pec)というJ-ラテン・ジャズ・シーンの精鋭達。この不動にして強固な5人の漢達による、ラテン・ジャズ・ユニットとしての抜群の“絆”は今作でも健在、自在にして闊達・洒脱なラテン・ジャズのエッセンスを開陳し、聴くものを心地よく悦楽の世界へと導いてくれる。また今作では<ナイト&デイ><タイム・アフター・タイム>2曲のスタンダードのラテン・バージョンに魅力的なシンガー、アンドレア・ホプキンズが加わり華麗に“華”を添えるが、中でも前者は今回のアルバムの中でも秀逸な出来栄えで、ラテン・ジャズならではのアグレッシヴなワクワク感が、彼女の迫力あるグルービーな唄いっぷりで一層の輝きを放つ。

またこのユニットは日本贔屓のスティーヴがリーダーならではの“スペシャル・メニュー”も毎回用意されるが、それが<海><最上川音頭><荒城の月>などの民謡や歌謡曲のラテン化。卓抜なアレンジにより心弾む開放感で我々を愉しませつつ、密かに“日本ラテン化計画”も推し進めているようでもあるのだが、今回はジャズで取り上げられることも多い本命ナンバーにして、天才美空ひばりがその真価を発揮した不朽の名曲<リンゴ追分>。日本的な哀感と情感、ラテンの緊迫感が混在化した充実の内容に仕上がっている。(但しここは定石のフルートでは無く、ソプラノかバリトン、とくにバリトン・サックスでゴリゴリと異色の“攻め”をして欲しかった気もする。そうすればこれまでとは一味違った日本の情念のようなものが、炙り出されたかも知れないのだが…。)

あのラテン・ディーバのNORA(オルケスタ・デ・ラ・ルス)は、かつて“粋で華麗なラテン・ジャズ・バンドで、私達の日常をスペイシーにしてくれる…”と彼らに賛辞を贈っていたが、その粋さ・お洒落感・洗練度などは今作でより増した感もあり、ラテン・ジャズ特有の“がむしゃらさ”“はちゃめちゃさ”といった、独特の臭み・味わいがいささか薄味になってしまった感があるのは、一寸残念なところでもあるのだが(ブリブリと大向うを唸らせる強靭なバリトン・サックスが、フルートの優雅さに取って代わられた部分が多かったせいも関係しているかも…)、しかし、しかしです、やはりこの秀逸ラテン・ジャズ・ユニット「マンボ・イン」は、いつ聴いてもダイナミックにしてスリリング、ぼくのごときオールド・ボーイをも、自ずと心も体も踊り出させてしまうような、かなり強烈な“魔力”を秘めているのです。まさにフェイヴァリット・ユニットのひとつとして皆様にもお勧めします。

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